女性ヴァイオリニストと「男性性」 ジネット・ヌヴー/イゾルデ・メンゲス②
原田真帆による連載「女性ヴァイオリニストと『男性性』 ジネット・ヌヴー/イゾルデ・メンゲス②」

金曜連載「名演奏家再批評」は、新世代の書き手がクラシック音楽の名演奏家を各4回のリレー形式で論じる企画である。第10弾では、ヴァイオリニストで西洋クラシック音楽におけるジェンダースタディーズを専門とする原田真帆が、録音史の初期に足跡を残したジネット・ヌヴーとイゾルデ・メンゲスをフェミニズムの観点で再批評する。全4回のうち第2回となる今回は「男まさり」の言葉が隠すものと題されている。
記事では、「女性的な演奏」について大岡昇平が1971年の『音楽芸術』第29号に寄せた評論が引用されている。大岡はその中で、女性演奏者が男性より情熱的に演奏する傾向や、ヌヴーの事故死の頃にレコードを買い力強い演奏に圧倒されたこと、ティボーの節度ある演奏による固定観念をヌヴーが覆したこと、キョン・ファ・チョンの演奏をテレビで見た後にオイストラフのレコードを聴いて安堵したことなどを記している。また大岡は女性ピアニストについて、現代のグランドピアノを扱う姿に指先のタクトや上膊部の筋肉の発達を予想させ、イタリアのオペラ歌手の巨大な胸とともに「マゾヒスチックな情感をそそる存在である」とつづっている。
原田はこれに対し、三島由紀夫の「女体を崇拝し、女の我儘を崇拝し、その反知性的な要素のすべてを崇拝することは、実は微妙に侮蔑と結びついてゐる」(「瘋癲老人日記」推薦文・1962年)という言葉を引き、自分より弱い属性のものが思わぬ力を見せた際の恐怖や、相手を押さえつけたくなる心理について言及。大岡がチョンを恐れ、ヌヴーを評価した背景に「マゾヒスチックな情感」や「微妙な侮蔑」が結びついていると論じている。次回第3回は2026年10月23日に公開予定となっている。
