独自システムで難聴者も楽しめる音楽を 東員町の藤田さん、新日本フィル奏者と実証演奏 - dメニューニュース
難聴のピアニスト藤田典人さんが独自システムを用いて新日本フィル奏者と実証演奏会で共演
難聴と向き合い、独自に機材を組み合わせたシステムでピアノ演奏に取り組む東員町の藤田典人さん(65)が5日夜、四日市市の三浜文化会館で開かれたシステムの実証演奏会で、新日本フィルハーモニー交響楽団の3人と共演した。ボランティアで演奏活動を続ける藤田さんにとって、プロの演奏家と音を奏でる夢舞台となった。優しい音色で会場を魅了した藤田さんは「こんな日が来るとは思わなかった。皆さんのおかげ」と声を震わせた。
システムではピアノの周りに複数のマイクを配置する。マイクで拾った音を補聴器を外しても聞き取れるようにデジタルミキサーで調整し、有線イヤホンで聞きながら演奏する。イヤホンで聞く音は、別の有線イヤホンで聴衆側の難聴者も聞くことができる。
この日は、新日本フィルのバイオリンやビオラ、チェロ奏者3人と藤田さんが観客約20人の前に登場。藤田さんはまずピアノソロを披露し、次いでバイオリンと共にマスネの「タイスの瞑想(めいそう)曲」を情感たっぷりに奏でた。ビオラやチェロとも順に共演し、きらびやかでしっとりした音色を観客に届けた。舞台上のマイク3本はピアノの低中高音をそれぞれ拾い、残りの1本は3人の奏者のそれぞれの楽器の前に配置した。
本番前にはシステムを調整する場面も観客に公開された。楽器とマイクとの距離などを微調整し、参加した数人の難聴者が聞き心地を確かめた。進行役を務めた新日本フィルの田村直貴さん(48)は「マイクとの距離が近すぎると、弦がこすれる音まで拾ってしまう」「イヤホンを通した時に音が割れてしまわないような楽器とマイクとの距離を探っている」と説明した。
実証演奏会は障害者らの文化芸術活動推進プロジェクトの一環。システムを使うことで難聴と健聴の音楽家が共演できる可能性を探り、聴衆側の難聴者への有効性や課題を確かめる場にもなった。
田村さんは、イヤホンで藤田さんが聞く音と奏者が聞く生の音の違いに注目し「どうしても音のボリューム感を合わせるのが難しい」と話した。藤田さんと奏者はこの日初めて音を合わせ「表現を合わせる難しさはあったが、練習を重ねればお互いのクセなどが分かり、クリアできると思う」と手応えを語った。
聴衆として参加した東員町の藤本春生さん(70)は、50歳から補聴器を使っている。この日初めて藤田さんのピアノと他楽器との共演を聞き「私の聴力だと、ピアノの音が他の楽器にかき消されるところがあった。低音のチェロとピアノはバランス良く聞こえて心地よかった」と話した。
藤田さんは「ピアノ以外の音の強弱は聞き取れたけど、柔らかさや滑らかさといった細かいニュアンスまで聞き分けることは難しい」とした上で「聞こえる人もそうでない人も音楽を楽しめる社会のため、一つずつ壁を克服していきたい」と力を込めた。