次期首席指揮者 ペッカ・クーシストが語る、東京都交響楽団とのこれから
次期首席指揮者 ペッカ・クーシストが語る、東京都交響楽団とのこれから

長きにわたって音楽監督を務めた大野和士の任期満了に伴い、今年度より新たな体制を迎えた東京都交響楽団。中でもひときわ注目を集めるのが、ペッカ・クーシストの首席指揮者就任(2028年度~)だ。指揮者大国・フィンランド出身で、ヴァイオリニスト・作曲家としても活躍している。今年度から2年間は、アーティスト・イン・レジデンスとして、指揮とヴァイオリン演奏の両面で都響と協働する。6月15日、就任記念公演のため来日中のクーシストを囲んだ記者懇談会が行われ、同楽団ソロ・コンサートマスターの矢部達哉、芸術主幹の国塩哲紀とともに、就任までの経緯や自身の音楽哲学について語った。
都響との初共演は2023年1月。同郷の名匠、ヨーン・ストルゴーズがタクトをとった定期演奏会で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲のソリストを務めた。翌年4月には「プロムナードコンサート」に指揮者として出演し、ヴィヴァルディ「四季」(弾き振り)とベートーヴェンの交響曲第7番を披露。当時は次の指揮者体制を模索していた時期であり、その新鮮な演奏スタイルと聴衆を引きつける力に感銘を受けた国塩が、終演後、バックステージで矢部と会話を交わし、すぐに楽屋でクーシスト本人にオファーを出したのだという。
矢部は「ペッカさんとの共演は、“電撃的に恋に落ちた”といえるような瞬間でした。リハーサルを経て、国塩さんに『首席客演指揮者になってくれるのであれば、それは素晴らしいことだと思う』というような話をしたのですが、終演後、彼は『シェフとして迎えたいという気持ちが出てきた』と言って。もちろん僕にはそんな権限はないけれども、すぐにアグリー(同意)しました」と語る。
国塩からの申し出を、驚きながらも真剣に受け止めたというクーシスト。公演から間を置かず、楽団員には彼を首席指揮者とすることをはじめとする指揮者体制の構想が共有され、今回の就任へと至った。
クーシストは「初めて都響を指揮した時は、曲目がヴィヴァルディとベートーヴェンだったということもあり、私はまだオーケストラの半分ほどのメンバーとしか出会っていませんでした。なので今回のリハーサルではまず最初に、楽団員の方々に『友達になりたい。そして、皆さんから学びたい』と伝えたのです」と述べ、一方通行ではないコミュニケーションを重視する姿勢を示した。
「オーケストラが持つ独特のヒエラルキーは、効率的に音楽を作るためには良い面ももちろんあります。しかし、時に情報が一方向にしか流れなくなるという問題も持っているのです。私が実現したいのは、オーケストラの中で情報があらゆる方向に流れることです。楽団員一人ひとりが持つ音楽的な知恵から、指揮者自身も最大限に吸収し、全員が『自分の才能がしっかり発揮できている』と感じられる。そんなオーケストラを目指していきたいと思います」
矢部は、初共演時から感じていたというクーシストの「人と人とをつなげる力」に期待を寄せる。「オーケストラは、“交響”曲をはじめとするさまざまな楽曲を演奏する団体であると同時に、パブリック、つまり“公共”の存在でもあり、都響は特にそのカラーが強い。日々の演奏会を繰り返している中で、どうしても後者の意味合いは忘れられてしまいがちですが、本来この二つの“コウキョウ”は両立されるべきものだと思うのです。音楽家同士だけでなく、聴衆にもつながりを広げ、パブリックとしてのオーケストラの社会的役割を果たしていく。ペッカさんはそのきっかけを作ってくれるすごい人なんじゃないかと思いますし、それがこれからの共同作業で一番楽しみにしていることです」
クーシストはオーケストラのメンバーに対して、「“マエストロ”ではなく“ペッカ”と呼んでほしい」と伝えているという。
アーティスト・イン・レジデンス就任後初の公演となった13日のプログラムでは、ハイドン「告別」の弾き振りとともに、オウティ・タルキアイネンやラウタヴァーラらフィンランドの作品を披露したクーシスト。今週末、19日&20日の公演でもシベリウスに加え、スウェーデンのアンデシュ・ヒルボリやアンドレア・タッローディなどを取り上げるが、今後もこうした北欧の作曲家を積極的に紹介していく意欲を示した。
クーシストは「今回の2つのプログラムは、今後私が取り組んでいきたいと考えていることの縮図といえるものです。これまで、日本の聴衆の皆さんの反応を見て『この国の方々は、“行間に書かれているものを聴く”ような音楽を好んでくださる』と感じてきました。私自身もそうした、何もかもが語り尽くされていないような作品を大事にして、オーケストラとともに模索していきたいと思います」と語った。