「好き」の中身を分解してキャリアを考えてみよう
テノール出身の丹羽大規が音楽大学でのキャリア授業をもとに「好き」の分解を通じた進路設計を語る

「音楽が好き」という言葉の背景にある中身について、音楽大学で4年間キャリアデザインの講座を受け持ってきた丹羽大規(コンバージェンス株式会社執行役員/テノール)が解説した。
初回の授業で「なぜピアノ(楽器)が好きなのか」と問いかけると、多くの学生が言葉に詰まる一方、「嬉しかった場面」を尋ねると「先生に褒められた」「バイエルが進んだ」「発表会で拍手が続いた」といった具体的な答えが返ってくる。これらから、楽器そのものではなく、取り組んだことが形になり誰かに認められた「成功体験」が好きだったという側面が浮かび上がる。
「好き」という感覚はいくつかの要素に分解できる。例として以下の3点が挙げられている。
・音そのものの心地よさ:楽器の響きが好きで、聴いているだけでも満たされる
・上達していく実感:できなかったことができるようになる変化が喜びになる
・人の反応:合奏の一体感、聴き手の表情、「認めてもらえた」手応え
見極めの方法として「もし誰にも一生聴かせられないとしても、続けますか」と自問し、「続ける」なら音や上達の実感が本体の候補であり、迷うなら人の反応が大きな部分を占めていると考えられる。
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業後にテノールとして活動し、MBA取得を経て現職に至った丹羽自身は、大学祭の模擬店運営や経営学での記帳の学習を通じて「込み入ったものが整理され、しくみとして腑に落ちる瞬間」に惹かれる自身の性質に気づいた。この性質は、歌曲の詩の構造や作曲家の意図を読み解く際にも、現在の研修講師の仕事(舞台袖の呼吸や声、間で場を動かす技術)にも通底していると述べている。
この分解は音楽から離れるためだけではなく、音楽を続けたい人にこそ必要だと丹羽は指摘する。本体が「上達の実感」なら人の上達に関わる道、「人の反応」なら企画側に回る道など、音楽の内外に選択肢が広がる。「なぜ好きなのか」を自問することは、将来にわたって使える手がかりになると結んでいる。