【第1回】若きワルターが甦る ――ワーナー全集を聴く
ブルーノ・ワルターの戦前録音を中心とする「ワーナー全集」20枚組BOX発売に伴う連載評論の第1回が公開

生誕150年を迎えた名指揮者ブルーノ・ワルター(1876~1962)の芸術を、ヨーロッパ時代からアメリカ時代、壮年期から最晩年まで録音を通して聴き直す全3回の連載企画の第1回。
第1回では、戦前の録音を中心に収めた「ブルーノ・ワルター・ワーナークラシックス・リマスター全集」(20枚組、2026年Art & Son Studioによるリマスタリング)を取り上げる。BOXには1924年から1939年までの英コロンビアおよび英グラモフォンへの録音のすべてと、1949年10月にウィーン・フィルと録音したマーラーの《亡き児をしのぶ歌》(フェリアー独唱)が収録されている。第2回はソニー・クラシカルのアメリカ時代、第3回では戦前と戦後の同曲異演比較が予定されている。
ベルリン生まれのワルターはレコード録音黎明期に活躍し、1923年の独グラモフォン録音、1924年末の英コロンビア移籍、1925年の電気録音導入、1934年から1939年の亡命までの英グラモフォン(ヒズ・マスターズ・ヴォイス)録音と歩みを進めた。
本作に収められた十八番の楽曲を通じ、戦前期から「ワルターらしさ」が息づいていることが解説されている。
・モーツァルト《フィガロの結婚》序曲:1928年のモーツァルト祝祭管弦楽団盤(初復刻)は速いテンポと推進力を持ち、1932年のブリティッシュ交響楽団盤では色彩感と丁寧さが増す。1961年のコロンビア交響楽団とのステレオ盤は遅いテンポで雄大な造型を示す。
・《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》:1931年ブリティッシュ響盤のスピード感やルフトパウゼ、1936年ウィーン・フィル盤における流麗な弦やムジークフェライン・ザールの残響を活かした演奏、そして1961年コロンビア響盤への影響が示される。
・ワーグナー《ジークフリート牧歌》:BOXには1924年ラッパ吹き込みの旧ロイヤル・フィル盤、1926年電気録音の旧ロイヤル・フィル盤、1930年ブリティッシュ響盤、1935年ウィーン・フィル盤の4種が収録され、ポルタメント奏法やテンポ設計の変化から新古典主義への移行やウィーン・フィルとの表現が検証されている。1959年コロンビア響盤の瞑想的な境地とも比較されている。
このように、ステレオ録音では接することのできないドラマティックで躍動感あるワルターの姿を知る上で、本全集が不可欠であると評されている。

