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🇬🇧 イギリスピアノClassica · 2026年10月9日 22:01 · レビュー· 約4分で読めます

Stephen Hough le pianiste en liberté

ピアニストのスティーヴン・ハフ、アルバム『ピアノ・ポストカーズ』で垣根なきレパートリーの自由を追求

日本語要約
イギリスのピアニスト、スティーヴン・ハフがアルバム『Piano Postcards』をリリースした。彼は1986年のデビューアルバム録音以来、レパートリーの階層や道徳的制約の打破に挑み続けてきた。かつてタブー視されたサロン小品や編曲作品を演奏し、現在ピアニストが作曲や編曲、古楽器やジャズへ自由に取り組める黄金期の先駆者となった。またアカデミズムを退けコンクールを活性化するため、リーズ国際ピアノコンクールのディレクターも務めている。
全文(日本語)

『Piano Postcards』において、イギリスのピアニストであるスティーヴン・ハフは、偉大なレパートリーの傑作、サロン風の小品、そして映画音楽を対話させている。このアルバムは、ヒエラルキーや偏見の撤廃を目指して彼が40年間にわたり繰り広げてきた美学的な戦いの一環である。

1986年、ニューヨークのテレサ・L・カウフマン・コンサート・ホールで最初のピアノ・リサイタルを録音するために足を踏み入れた当時25歳の若きスティーヴン・ハフは、1960年代以降の音楽界を支配していたレパートリーの道徳主義から同業者たちを自らが解放することになるとは夢にも思っていなかった。彼はその後も様々な「ピアノ・アルバム」を発表し、その魅惑的で情熱的な選曲は愛好家たちを歓喜させ、ピアニストたちを感嘆させた(ロジャース&ハマースタインの『回転木馬』の「ワルツ」や『王様と私』の「シャムの双子の行進曲」など)。しかし、最初のアルバムは今なお極めて重要な節目である。

『My Favorite Things』は、サロン小品集の中に隠された美学的自由のマニフェストであり、彼はそこにやがてチャートに入るようなトランスクリプション(編曲)を組み合わせていた。その中には、ナチス政権下のザルツブルクでのトラップ一家の冒険を描いたミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』からの、アルバムのサブタイトルにもなったスウィング感あふれる美味しい作品も含まれていた。ハフは、一見軽薄に見えながらも幼少期から親しんできた、胸を締め付ける転調の中に夢への扉やそれ以上のものを開くノスタルジーを秘めた魅力的な音楽へオマージュを捧げたかったのである。またハフは、自らが愛し、レコードを聴いて多くを学んだ往年のピアニストたちにも敬意を表していた。

当時ハフが語ったところによると、彼が本格的なピアノのレッスンを受け始めた頃、教師から両手をずらして弾かないよう指示されたという。ハフは「コルトー、フリードマン、モイセイヴィチのように、それが正しいやり方だと思って自然に」左手をわずかに先行させ、右手をより響かせてフレーズを生き生きとさせていた。しかし、アカデミズムは長い間このような自由を禁じていた。また彼は、シューラ・チェルカスキーら存命の人物にも敬意を払っていた。ハフとチェルカスキーは互いに敬愛し合っており、グランジュ・ド・メスレでのリサイタル後、当時その場にいてハフの楽屋の椅子にトマス・アクィナスの『対異教徒大全』が置かれているのを見て驚嘆した故ジャック・ドリヨン(『ル・ヌーヴェル・オブセルヴァトゥール』紙)らを目撃者に、高齢のチェルカスキーがハフを抱きしめたこともあった。

確かにこの40年で、ピアノは押し付けられた規範から解放された。今日では、作曲、即興、編曲、トランスクリプションを行うピアニストの数は数え切れない。「クープランやラモー、バッハはチェンバロで弾くべきだから」と遠ざけられ、ホルヘ・ボレットやチェルカスキーが語ったようにドイツでは破門に値する低俗の象徴とされたリストの超絶技巧曲を忌避し、ショパンを白眼視し、編曲を毛嫌いして、若いピアニストをモーツァルトからラヴェル、新ウィーン楽派、そして罪を免除してくれる現代音楽へと至る決められた道筋に閉じ込めていた道徳主義の軛は、もはや不要となったのである。

当時の音楽批評は融通が利かないことが多かったが、世代交代が状況を一変させた。現在では、音楽院で白眼視されることもなく、チェンバロ、フォルテピアノ、ジャズのクラスに登録するピアニストもいる。もはや単一の楽器に縛られる必要はなく、マーラーかブルックナーか、ブーレーズかグラスか、ベートーヴェンかリストのハンガリー狂詩曲かといった二者択一を迫られることもない。ロベルト・シューマンとともに始まった道徳主義的批評は店をたたみ、引退した。その批評は今や、ピアニストたちの大規模な解放運動に寄り添っている。そしてCDは、大手レーベルから見捨てられていた古い音源を、過去の遺物としてではなく高まる関心とともに復刻できるようになった。

ピアノは今、黄金期を迎えており、音楽への完全な献身ゆえに教皇のように真面目でありながら英国的なエキセントリックさを持つスティーヴン・ハフは、その主要な立役者であった。若い世代のように、レパートリー、音楽的アプローチ、ピアノのスタイルにおいてこれほど自由をもって演奏された時代はおそらくかつてない。世界中の音楽批評もこの自由を後押ししており、明確な美学や技術の反映というより過剰なナショナリズムの名残である「ピアノの流派」にピアニストを閉じ込める悪習を否定する傾向が強まっている。

もちろん、定期的に「秩序の回復」を図り、突出した才能を排除して無難な者を評価しがちなピアノコンクールも依然として存在する。スティーヴン・ハフがリーズ国際ピアノコンクールのディレクター就任を引き受けたのは、コンクールを牛耳る教員審査員たちのアカデミズムの亡霊を遠ざけ、コンクールを活性化させるためであったのだろう。イヴ・ナットの「偉大な生徒が偉大な教師を作る」というモットーを忘れてはならない。本質的なことは教えられるものではないのだ。

もっとも、ハフにとってこれが容易な道であったわけではない。

原文(抜粋)
Dans Piano Postcards , le pianiste britannique fait dialoguer chefs-d’œuvre du répertoire, pièces de salon et musiques de films. Cet album s’inscrit dans un combat esthétique mené depuis quarante ans pour l’abolition des hiérarchies et des préjugés. En entrant, en 1986, dans le Theresa L. Kaufmann Concert Hall, à New York, pour enregistrer son premier récital de piano, le jeune Stephen Hough, âgé de 25 ans, ne s’imaginait évidemment pas qu’il allait libérer ses confrères de la moralisation du répertoire qui dominait la vie musicale depuis les années 1960. Il a publié d’autres « Piano Album » depuis, dont les menus délicieux et passionnants ont fait la joie des mélomanes et l’admiration des pianistes : ah ! la « Valse » de Carrousel , la «
▼関連キーワード解説 (7)
スティーヴン・ハフ人物・団体Wikipedia ↗

スティーヴン・ハフ は、イギリス出身オーストラリア在住のピアニスト・作曲家・作家。2005年にオーストラリアの市民権を取得しており、現在は二重国籍の状態にある。

オスカー・ハマースタイン2世人物・団体Wikipedia ↗

オスカー・グリーリー・クレンデニング・ハマースタイン2世 は、アメリカのミュージカル作詞家・脚本家。

アルフレッド・コルトー人物・団体Wikipedia ↗

アルフレッド・ドニ・コルトー は、20世紀前半のフランスを代表するピアニスト、ピアノ指導者、指揮者、教育者、音楽学者。

イグナーツ・フリードマン人物・団体Wikipedia ↗

イグナーツ・フリードマン はポーランド出身のユダヤ系のピアニストで作曲家。ハロルド・ショーンバーグのような音楽評論家や、セルゲイ・ラフマニノフらのピアニスト仲間から、レオポルド・ゴドフスキーやモーリッツ・ローゼンタール、ヨーゼフ・ホフマン、ジョセフ・レヴィーンらと並ぶ、当時の至高のヴィルトゥオーゾとして一様に高く評価されていた。名については、ポーランド語のイグナツィ(Ignacy)や英語のイグナス(Ignace)を用いる場合がある。なお本名は、ザロモン(またはゾロモン)・イザーク・フロイトマン であった。

ベンノ・モイセイヴィチ人物・団体Wikipedia ↗

ベンノ・モイセイヴィチ はユダヤ系ロシア人のピアニスト。

シューラ・チェルカスキー人物・団体Wikipedia ↗

シューラ・チェルカスキー はウクライナ系アメリカ人ピアニスト。後半生のほとんどをロンドンで過ごした。本名アレクサンドル・イサーコヴィチ・チェルカスキー。

フランソワ・クープラン人物・団体Wikipedia ↗

フランソワ・クープラン は、バロック時代のフランスの作曲家。多くの音楽家を輩出したクープラン家の中でも特に有名な人物であり、大クープラン として知られる。

出典: Wikipedia 日本語版(各項目の要約・CC BY-SA)
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