カラヤンは何のために音楽をしたのか③
ライター有馬慶による連載「カラヤンは何のために音楽をしたのか③」、1978年ルツェルン音楽祭の《春の祭典》ライヴ録音を批評

金曜連載「名演奏家再批評」は、新世代の書き手がクラシック音楽の名演奏家を各4回のリレー形式で論じる企画である。第9弾では、ライターの有馬慶が指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンについて、その「美音」のイメージを疑いながら再批評を行っている。全4回のうち第1回は無料公開、第3回を含む第2回以降は有料公開となっている。
「美音」の彼方——1978年ルツェルン・ライヴ
おびただしい数のカラヤンの録音からひとつ選ぶとすれば、有馬は1978年のルツェルン音楽祭におけるストラヴィンスキーのバレエ音楽《春の祭典》を挙げる。カラヤンはこの曲を2度セッション録音しているが、この演奏はそのいずれとも異なり、獣のような身体性を持った演奏であると述べる。
【ディスク情報】
・ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》、ベートーヴェン:交響曲第7番
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(録音:1978年1月[ベートーヴェン、ベルリン・フィルハーモニーでのライヴ]、8月[春の祭典、ルツェルン音楽祭の記録音源]/Palexa CD0531)
《春の祭典》は原始時代のロシアを舞台にしたバレエ音楽であるが、野性味や身体性を感じさせる演奏は意外に少ないと指摘する。名盤とされるブーレーズ指揮クリーヴランド管の録音(1969年7月録音、ソニー・クラシカル SICC30341、1970年度第8回レコード・アカデミー賞管弦楽曲部門受賞)は鮮烈な色彩とリズムの饗宴であり音響としては最上だが、原始時代の風景は見えずバレエ音楽にも聴こえないとする。また、有馬が生で聴いた中で最も素晴らしいサロネン指揮フィルハーモニア管の演奏も同様であると述べる。
そうしたなか、カラヤンが生々しく血肉を感じさせる《春の祭典》を表現していたことは驚きであるとし、第2部冒頭について、ブーレーズやサロネンによる人工的で冷たい響きに対し、すべてが死に絶えたような、恐ろしい獣が寝息を立てているような緊張感があると評している。さらにラストの〈生贄の踊り〉では、弦楽器や管楽器、打楽器が激しく鳴り響き、本気を出したベルリン・フィルの尋常ではない表現力が発揮されているとする。
有馬は、これこそが真の姿であるとは言わないとしつつ、「美音」で化粧した姿こそ彼が人々に見せたかった姿であり人々が見たがった姿であるが、その隙間から一瞬覗いた闇に魅かれると結んでいる。本連載の第4回は2026年9月25日に公開予定とされている。
