ラヴェルの人生、10のターニングポイント【後編】戦争、母の死、トスカニーニ事件
ラヴェルの人生、10のターニングポイント【後編】戦争、母の死、トスカニーニ事件

2026年6月3日公開のポッドキャストにて、ロジャー・ニコルズ著『モーリス・ラヴェル 海賊と時計職人』の訳者である神保夏子氏と平野貴俊氏が、ラヴェルの人生における10のターニングポイントについて語った。後編では、戦争や母の死を経て変化した「新しいラヴェル」に焦点を当てる。
ターニングポイント6:第一次世界大戦での従軍
ラヴェルは1914年の開戦時に従軍を強く希望し、軍用トラックの運転手として戦地へ向かった。戦地での過酷な体験は精神的に大きな影響を与えたが、創作意欲は衰えなかった。この時期の作品《クープランの墓》は、戦死した友人たちへの追悼であり、戦争体験を消化しようとする試みでもあった。また、1918年のピアノ曲《口絵》は、戦場の極限状態を思わせる内容で、珍しい5手ピアノ編成という特殊な作品である。
ターニングポイント7:母の死
1917年、ラヴェルが深く愛した母親が死去。従軍を隠していたことや、戦地から戻った後のわずかな期間しか一緒に過ごせなかったことが、ラヴェルにとって大きな心残りとなった。この時期の戦争体験と母の死は、その後の創作に影を落とし、戦後の作風変化の一因となった可能性がある。また、母はスペイン系でフランス語を完全には習得しておらず、ラヴェルは母に対してのみ、他人には見せない息子としての素顔を見せていた。
ターニングポイント8:ラヴェル、家を買う
1921年、パリ郊外のモンフォール=ラモリに家を購入。独身であったラヴェルは、自分の趣味を詰め込んだ「城」のような空間を作り上げた。庭造りや収集品にこだわり、偽物のルノワールを飾って来客を驚かせるなど、完璧主義と遊び心を発揮した。他の作曲家と異なり、経済的に困窮した様子は見られない。
ターニングポイント9:《ボレロ》のテンポで、指揮者トスカニーニと衝突
代表作《ボレロ》を巡り、指揮者トスカニーニと衝突したエピソードは有名である。ラヴェルは、トスカニーニがテンポを速くし、かつ揺らして演奏したことに激怒した。機械的な持続感こそが作品の本質であると考えるラヴェルにとって、テンポの揺れは作品を損なう行為であった。