物語世界を体感する「『ピアノの森』ピアノコンサート2026 髙木竜馬」2台ピアノのラフマニノフの協奏曲で圧巻のステージに
髙木竜馬が住友生命いずみホールで開催した『ピアノの森』ピアノコンサート2026
2026年8月15日(土)、大阪の住友生命いずみホールで『ピアノの森』ピアノコンサート2026が行われた。この日のステージの主役は、アニメ版でメイン・キャラクターである雨宮修平のメインピアニストを務めた髙木竜馬。『ピアノの森』をドラマチックに彩った名曲の数々によって、物語の世界観を想起させるスペシャルな時間が繰り広げられた。
公演幕開けの1曲目は、ベートーヴェンの「エリーゼのために」。『ピアノの森』の主人公・一ノ瀬海が後の師匠に教わった一曲だ。半音を揺れ動くような弾き出しと、まどろむような音色。もの思いにふけるような演奏で、この日のステージへと幻想的に誘う。
その後は、一ノ瀬海にとって運命的な存在とも言えるショパンの作品を並べて演奏。まずは前奏曲「雨だれ」。作品のなかで何度も打鍵される変イ音は、まさに透明な雨だれを思わせる美しさだ。緊張感が支配するダークな中間部も含めて、1曲目の「エリーゼのために」にも通ずる内省的な表現が印象深い。
そこから打って変わって演奏されたのが、「小犬のワルツ」。気品あるワルツのリズムを基調に、自分の尻尾をクルクルと追いかける犬の姿が思い浮かぶ。しかし、羽目を外すような無邪気さ一辺倒ではなく、どこか優雅さも漂う。
そして次のバラード第1番で、前半の山場へ。髙木が『ピアノの森』でメインピアニストとして演奏を担当した雨宮修平が、作中のコンクールで演奏した作品だ。何かを訴えかけるような旋律を、声や言葉で語るような切実さと歌心に溢れた演奏。ドラマチックさを増しながらクライマックスへと向かい、それに比例するように会場の聴き手の集中力も増してゆく。
前半最後にクライマックスを飾ったのが、「英雄ポロネーズ」だ。ポロネーズとは、ポーランドの民族舞踊のことで、 “タンタタタッタッタッタッ”のリズムが特徴的。髙木竜馬はこのリズムを勇ましく響かせ、音楽全体をグッと引き締める。ゆったりとルバートをかけた中間部を経て、もう一度満を持して冒頭を再現し、堂々たるラストを迎えた。
そして後半は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の2台ピアノ版をメインに据えた。髙木竜馬はこの作品について、「あらゆるピアニストが世界で一番難しいと答えるであろう曲。自分もいつか取り組みたいと思っていた」と語った。『ピアノの森』の一ノ瀬海も、この作品をきっかけに世界への扉を叩くこととなる。
髙木竜馬はソリストパートである第1ピアノを担当し、オーケストラパートを担う第2ピアノは妹・髙木薫子が演奏。第1楽章の冒頭、第2ピアノによる落ち着いた響きに導かれ、髙木竜馬によって静ひつさと情感を両立させた旋律が歌われる。中間部には甘美の極みというべき旋律が現れ、2人による変幻自在な音色が徐々に深みを増していくさまが印象的だ。
第2楽章は、第2ピアノが奏でるもの憂げな旋律から展開。その旋律が形とありさまを変化させるうちに、2台のピアノの音色は徐々に溶け合い、ロマンティシズムがより表れてくる。そこにあるのは、ピアノとオーケストラによる掛け合いとは異なる、ピアノという同一の楽器による魅惑的な渾然一体感だ。
そして、第2楽章からアタッカでなだれ込むように始まった最終楽章は、マーチ風のリズミカルな冒頭で始まる。第1ピアノと第2ピアノがそれぞれにうねりを生み出し、そして双方がぶつかり、大きな波をともにつくり出す。そのさまは、ソリストと非ソリストによる協奏曲という枠を超えた音楽に発展していくようにも見える。最後は再びマーチのような勇ましさを取り戻し、満を持して2台のピアノが息を合わせてクライマックスを迎える。カタルシスさえ感じさせるような圧巻のラストに、聴衆の拍手は鳴り止まなかった。
演奏後、「この曲は本当に大変で。でも、人間のすべての感情が込められたような作品だと思っています」と高木竜馬。「いつかオーケストラと一緒に、この作品を共演したい。そのときはぜひみなさまにも聴いていただきたいです」と意気込み、今後に向けて期待を高めた。
最後に、「みなさまの心をやわらげるために」と、ブラームスの「ワルツ」作品39-15をアンコールで披露。お盆まっただ中、夏の暑さもしずめるような柔らかく優しい演奏で、会場をヴェールのように包み込むように、この公演を締めくくった。
名曲の数々と圧巻の2台ピアノによって『ピアノの森』の美しくドラマチックな世界観を描き出した本公演。髙木竜馬と髙木薫子によるこのスペシャルなツアーは、このあと山形、東京、愛知の3都市をめぐる。