楽器の「再開」は脳にいい! ~脳科学者・瀧靖之さんインタビュー前編
楽器の「再開」は脳にいい! ~脳科学者・瀧靖之さんインタビュー前編

2026年6月、東北大学加齢医学研究所と河合楽器製作所、島村楽器、ピティナ、ヤマハの5者による共同研究が開始された。本研究は、10年以上のブランクがある30〜60歳を対象に、大人になってからのピアノ再開が心身や認知機能に与える効果を科学的に検証するものである。
研究を主導する東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之氏は、楽器演奏が脳の健康維持や認知症リスク低減に効果的であることは多くの研究で示されていると述べる。今回「再開」に着目した理由として、初めて楽器を始めるよりも心理的ハードルが低いこと、および「ノスタルジー」が脳に与える良い影響を挙げた。また、新しいことを始める際の「現状維持バイアス」を乗り越える上でも、経験者であることは有利に働くと想定される。
瀧氏自身も約25年のブランクを経てピアノを再開しており、生活に潤いや目標が生まれることで「主観的幸福感」が高まることを実感しているという。また、ピアノ演奏により音の分解能が高まることで、英語のリスニング能力にも良い影響があると言及した。瀧氏が再開のきっかけとして挙げた曲は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番《悲愴》第2楽章と、ラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》第18変奏である。
音楽を聴くことも報酬系を活性化させるが、演奏という能動的な活動は、脳の健康維持においてより高い効果が期待できる。今回の研究では、全身で音の響きを感じられるアコースティックピアノを使用するが、瀧氏は「楽しむこと」と「続けること」が最も重要であり、電子ピアノも有効な選択肢であると補足した。本研究を通じて、楽器を楽しむ人が増え、認知症リスクの低減や国民医療費の抑制といった社会的な貢献につながることを目指している。
