エレーヌ・ド・モンジェルーに魅せられて 録音編/谷戸基岩
エレーヌ・ド・モンジェルーに魅せられて 録音編/谷戸基岩

音楽評論家・谷戸基岩氏と音楽学者・小林緑氏によるリレー連載の第6回は、フランス革命期に活躍した貴族出身の作曲家エレーヌ・ド・モンジェルー(1764~1836)を特集する。本稿は「録音編」として、彼女の作品の録音史を辿る。
モンジェルーの録音史は、ジェローム・ドリヴァルの著作『エレーヌ・ド・モンジェルー、侯爵夫人とラ・マルセイエーズ』(2006)の出版を機に本格化した。Editions Hortusレーベルからブルノ・ロビリャールやニコラ・スタヴィによるCDが発売され、ソナタや練習曲が紹介された。ドリヴァルは、モンジェルーが練習曲に「夜想曲」や「性格的小品」といったタイトルを付けていれば、より早くロマン派の先駆けとして評価されていたはずだと指摘している。
その後、2017年にはエドナ・スターンが1860年製プレイエルを用いて録音。2022年にはクレアー・ハモンドが練習曲集を発表した。また、2010年代後半からは女性作曲家や初期練習曲のアンソロジーでも取り上げられるようになり、ソフィー・ローザとイアン・バックルによるヴァイオリン・ソナタの世界初録音なども行われた。
転機となったのは、ニコラス・ホルヴァートによる『ピアノ・ソナタ全集』である。その激しく刺激的な演奏は、革命期に音楽家として生き抜いた彼女の音楽の真価を伝えた。また、シモーネ・ピエリーニによるピリオド楽器を用いた全集も発売されている。
その他、エリザベト・ピオンとマチュー・リュシエ指揮アリオン・バロック・オーケストラによる『アマデウスと皇后』では、ヴィオッティの協奏曲を編曲したピアノ協奏曲や、リュシエによる編曲作品が収録されている。最新の推薦盤としては、マーシャ・ハジマーコスが1817年製スクエア・ピアノを使用した『天啓を受けた女性作曲家の肖像』が挙げられる。
モンジェルーは、貴族社会から市民社会への転換期において、先進的な音楽性を保持しつつ新しい時代に適応した稀有な作曲家であった。なお、名前のカタカナ表記については「モンジェルー」が適切であると論じている。
