名演奏のディスコロジー 第10回 ヒンデミットの《金管とピアノのためのソナタ集》
柴田南雄の連載「名演奏のディスコロジー」第10回が再掲載、グールドとフィラデルフィア管金管奏者らによるヒンデミットのソナタ集を批評

柴田南雄による『レコード芸術』(1976年1月号~77年12月号)の連載「名演奏のディスコロジー」第10回が再掲載された。今回の対象は、グレン・グールドとフィラデルフィア管弦楽団の金管首席奏者たちが演奏したパウル・ヒンデミット作曲『金管とピアノのためのソナタ全集』(CBS・ソニー)である。
柴田がこのアルバムを取り上げた理由として、グールドが過去に録音したヒンデミットのピアノ・ソナタ(3曲)が優れていたこと、フィラデルフィア管の金管セクションの腕前が信頼できること、ナチスから逃れアメリカの音楽生活と結びついた時期のヒンデミットの職人芸的音楽には北米の名手が適していること、の3点が挙げられている。
収録されている奏者は、ホルンのメイソン・ジョーンズ、トランペットのギルバート・ジョンソン、トロンボーンのヘンリー・チャールズ・スミス、テューバのエイブ・トーチンスキーである。各曲の批評内容は以下の通り。
・ホルン・ソナタ(1939年作):第二次大戦直後、スイス滞在時の作。ジョーンズはフランス風の明るく柔らかな音で抒情的に吹き、自在な半音階や四度の跳躍を悠揚迫らず演奏している。グールドは伴奏において旋律を浮き出させずバスや内声を強調し、スタッカートや乾燥した音を用いてホルンの伸びのある音と対比させ、リズムのオスティナートによるクライマックスを巧みに構築している。
・トランペット・ソナタ(1939年作):オペラ《世界の調和》への習作として書かれた。ジョンソンは第1楽章を堂々と作り、第2楽章のシグナル風モチーフを軽妙に吹いている。第3楽章の葬送音楽およびコーダのコラール「なべての人、死すべきなり」では、ジョンソンの息の長い吹奏とグールドの装飾が一体となり、戦禍を反映した深い解釈を示している。
・トロンボーン・ソナタ(1941年作):渡米後にエール大学と契約した時期の作品で、生活の活力が反映されている。スミスはフランス風の柔らかいヴィブラートを伴う音を用いながら、鋭いアクセントや驚くほどの長い息による表現を聴かせている。第2楽章に相当する部分では、ピアノの変奏とトロンボーンによる同一の8小節の反復が対立する特異な構成を持つ。