名演奏のディスコロジー 第11回 べルマン・ラプソディー
柴田南雄の連載「名演奏のディスコロジー」第11回が再掲載、ピアニストのラーザリ・ベルマンを評論

柴田南雄の連載「名演奏のディスコロジー」の再掲載10回目となる今回は、『レコード芸術』1976年1月号から77年12月号まで計22回続いた連載の第11回「べルマン・ラプソディー」が取り上げられた。本稿では、当時「幻の巨匠」として西側諸国へデビューしたピアニスト、ラーザリ(ラザール)・ベルマン(1930~2005)を対象とし、冷静な評価が試みられている。
ベルマンをめぐっては、レコード産業によるキャンペーンやカラヤンによる後押し、日本のジャーナリズムの過熱ぶりなどの現象が見られた。柴田は武田明倫との対談で「ほとぼりがさめてから聴かせて貰おう」「シベリアでマンモスが発掘されたという興味に近い」などと語っていたが、一連の録音を年代順に聴いて評価を行うこととした。レコード会社連合による大々的な売り込みの背景として、クラシック部門の不振や、大衆に受ける技巧派新人(あるいはロシアからの旧人)の発掘という商業的動向を考察している。
最初に聴かれたのは、英SAGA原盤による1958年3月録音のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番《熱情》およびリスト:ピアノ・ソナタ ロ短調(セブンシーズ SLA1093)である。音の状態が良好とは言えず、モノーラル録音を後から疑似ステレオ加工した可能性にも触れつつ、ベルマンの演奏は楽々と弾き切ってはいるものの平板で、音色変化や配慮に欠け、技巧が空回りしていると評している。また、1956年のリスト・コンクールで同率1位、同年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで5位(1位はアシュケナージ)となった経歴や、本人がかつてショパンのソナタの終楽章を50秒で弾くなど早弾きを競っていたエピソードを引き合いに出し、28歳当時の録音にはその技巧偏重が生々しく反映されているとした。
続いて、1963年にモスクワで録音されたメロディア原盤のリスト《超絶技巧練習曲集》(全12曲)、《ハンガリー狂詩曲第3番》、《スペイン狂詩曲》(ビクター VIC4010~11)を検証している。前作に比べて録音状態やフレージングは改善しているものの、《スペイン狂詩曲》におけるリズム感の重さや泥くささ、《超絶技巧練習曲集》における荒削りさを指摘し、アシュケナージの都会的なセンスと比較してロシア地方巡業的な感覚であると評した。ベルマン自身が名乗る「19世紀的ヴィルトゥオーゾ」という点についても、感情的なカンティレーナの歌い込みに欠け、ソ連式の機能主義や運動選手的な肉体性に傾いていると分析している。さらに、1965年録音のシューマンの《ピアノ・ソナタ第2番》やシューベルト(リスト編)の小品などを収めたアルバム(ビクター VIC2017)についても言及されている。


