N響に登場した巨匠指揮者列伝 第4回 ホルスト・シュタイン
NHK交響楽団と名誉指揮者ホルスト・シュタインの四半世紀にわたる歩みと名録音を振り返る連載記事

創立100年を迎えたNHK交響楽団の歴史を彩った名匠たちを振り返る連載「N響に登場した巨匠指揮者列伝」の第4回として、音楽評論家の満津岡信育が指揮者ホルスト・シュタイン(1928~2008)を取り上げている。
シュタインが初めてN響を指揮したのは1973年2月5日の第595回定期公演Aプログラムで、モーツァルトの交響曲第29番、R.シュトラウスの交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》、ワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第3幕への前奏曲などを指揮し高く評価された。ここから1998年2月19日の第1345回定期公演Bプログラムまで、四半世紀以上にわたり関係が続いた。1975年3月にはN響から名誉指揮者の称号を贈られ、1970年代から1990年代にかけて度々客演した。リハーサルでは厳しい指導から“鬼将軍”と化すこともあったが、指揮台を離れるとユーモアあふれる性格で楽員の心をつかんだ。
1928年にエルバーフェルトで生まれたシュタインは、ケルン音楽大学でフィリップ・ヤルナッハやギュンター・ヴァントに師事し、フリッツ・レーマンからも指導を受けた。1947年にヴッパータール市立劇場と契約して以降、ハンブルク国立歌劇場やベルリン国立歌劇場の副指揮者、マンハイム国立劇場の音楽総監督、ウィーン国立歌劇場第一指揮者などを歴任した叩き上げの劇場人である。1951年のバイロイト音楽祭ではハンス・クナッパーツブッシュ指揮の《パルジファル》で鐘を担当するなどの修業を重ねた。
指揮ぶりはカペルマイスター的で、手腕をもって要所でオーケストラから豊かな響きを引き出した。1975年の《カルミナ・ブラーナ》のリハーサルでカスタネットの模範演奏を披露したエピソードや、元首席オーボエ奏者の茂木大輔とのやり取りなど、厳しさとユーモアを併せ持つ人柄が記録されている。特に評価が高かったのはワーグナーで、1980年代にはN響とのセッション録音としてワーグナーの管弦楽曲集やドイツ・ロマンティック序曲集を残したほか、ライヴ録音もリリースされている。シュタイン自身は「自分を指揮せず、作品を指揮する」というポリシーを持っていた。
